リハきそ

整形外科領域を中心とした理学療法の臨床・教育・管理などの情報を発信します!

末梢神経損傷の基礎 損傷機序〜回復過程

て、タイトルの通り、今回は末梢神経損傷について成書を中心にまとめていきたいと思います。

 

末梢神経の構造・機能、損傷の病態、回復過程について、しっかりと押さえておきたい事項を書いていきます。

 

 <アウトライン>

  

梢神経とは

 

 末梢神経は、中枢神経からの命令を末梢の組織(骨格筋など)に伝え、また、末梢の感覚器からの情報を中枢神経に伝達する役割を担っています。

 

(1)末梢神経の構造

 有髄線維と無髄線維といった神経線維の集合体を神経内膜が包んでいます。この神経線維の束には、運動神経・感覚神経・自律神経が混在しています。

 神経線維の太さはさまざまで、太い神経線維ほど、阻血や圧迫により障害されやすいとされています(文献2)。

 

 この神経内膜に包まれた神経線維の束は、強い結合組織からなる神経周膜によって包まれています。この神経周膜は、神経線維の保護と内圧調整といった重要な役割を担っています

 

 そして、神経周膜で包まれた神経束神経上膜によって包まれます。このようにして形成された神経束の隙間は、脂肪組織や血管で埋められています。

 

f:id:gene_ptkh:20190218225009p:plain

 

(2)末梢神経の血流

 他の組織と同様に、末梢神経も、神経の伝導を維持するために豊富な血液による栄養供給を受けています。

 

 このため、損傷した神経では炎症反応が起こります。炎症により血管透過性が増加すると上述した結合組織の膜(神経上膜・周膜・内膜)の中で腫脹・浮腫が生じます。その結果、神経線維の圧迫が起こり、伝導障害が生じる可能性があります。

 

梢神経の機械的特性

 末梢神経は、緊張滑走という2つの性質を利用して、外部からの物理的ストレスに対応しています。

 

 神経が接触する筋や骨などの生体内の組織や物質はカニカルインターフェースと呼ばれます。

 例えば、手根管は正中神経、椎間孔は脊髄神経根のメカニカルインターフェースとなります。また、筋でいえば、梨状筋は坐骨神経のメカニカルインターフェースとなります。

 

 神経は運動に合わせて、これらのメカニカルインターフェースの上を滑走することになります。したがって、これらの構造になんらかの障害が起こることで、神経は容易に圧迫されたり、滑走不全が起こったりします。

 

 また、神経線維自体やそれを包む膜構造は伸張性を有しているため、神経は伸ばされる力にも対応することができます(緊張)。

 

 一般的に、運動の初期では滑走による適応が、最終域では伸張による適応が起こるとされています

 

 さて、それでは神経障害を引き起こすようなストレスについて考えていきましょう。

 

 まず分かりやすいストレスが圧迫です。局所的な圧迫ストレスは、直接神経にストレスを与えるだけでなく、神経の直径を減少させてしまい、神経内圧の上昇や血流障害を引き起こします

 

 神経では40mmHg程度の比較的軽度な圧迫ストレスでも血流障害が起こる可能性があるとされています(文献3;対象は兎の脛骨神経)。しかし、2時間圧迫を続けたとしても、圧迫解除後にはすぐに血流が回復する能力も備えています。

 

 したがって、通常の運動や長時間の同一姿勢、筋の反復的な収縮でも、神経に障害を及ぼす可能性があるため注意が必要です。

f:id:gene_ptkh:20190218223451p:plain

 次に伸張ストレスです。ゴム紐などを想像していただければ分かりやすいと思いますが、強い引っ張り応力が加わると、その直径も減少してしまいます。すると、圧迫ストレス同様、神経内圧の上昇や血流障害が引き起こされることになってしまいます。

 

 神経の断裂は、静止長の20%以上の伸張で起こり、15%程度の伸張で血流障害が起こるとされています(文献4)。

 

 したがって、神経に対して伸張ストレスを加えていくときは十分な注意が必要になります。

f:id:gene_ptkh:20190218222630p:plain

梢神経障害の原因

 

 末梢神経障害の原因には下記のようなものがあります(文献2)。

  • 中毒性:金属(鉛、水銀など)、有機物(一酸化炭素など)、薬物
  • 物理的要因:圧迫、絞扼、火傷、放射線
  • 欠乏状態や代謝異常脚気、糖尿病など
  • 血管性疾患:結節性多発血管炎、動脈硬化など
  • その他

 

 特に、理学療法士が現場で対応することが多い神経障害の原因は、物理的要因によるものが多いと考えられますので、ここの部分を詳しくみていきましょう。

 

 神経障害に関わる物理的な要因として、さきほど紹介した圧迫と牽引(伸張)が代表例として挙げられます。

 

(1)圧迫性(絞扼性)神経障害

 まず、解剖学的(メカニカルインターフェースにより)に圧迫を受けやすい末梢神経の代表例を押さえておきましょう。

  • 総腓骨神経ー腓骨頭後方
  • 橈骨神経ー上腕骨の橈骨神経溝、回外筋腱弓
  • 正中神経ー手根骨アーチの軟部組織
  • 尺骨神経ーGuyon管、肘部管
  • 大腿外側皮神経ー鼡径靭帯

 こられの神経は、軟部組織や骨に囲まれた部位(メカニカルインターフェース)を走行するため、神経の動きが制限され、圧迫を受けやすくなっています。

 

 さらに、脊髄から出る神経根のなかには、神経上膜や神経周膜を持たないものもあり、他の末梢神経よりも損傷を受けやすいと言われています(文献1)。

 

 では、末梢神経は圧迫を受けるとどのような反応を示すのでしょうか?

 

 まず、圧迫により、神経内の血管が障害されます。これにより、局所的な虚血が生じ、循環不全に陥った神経内は低酸素・低栄養の状態となります。

 

 また、圧迫により血管の透過性が亢進することで、神経内に浮腫・腫脹が生じ、さらに圧迫を強めることになります。

 このような浮腫や腫脹は、神経内への線維芽細胞の侵入を許してしまします。その結果、瘢痕化が起こり、神経の滑走不全のが起こります

 

 滑走不全の結果、滑走時の周囲との摩擦ストレスが増大し、さらなる障害が生じることで、浮腫が増悪していきます(悪循環ですね)。

 

 さらに、圧迫により神経線維は変形も起こります。

 

 局所性の虚血、浮腫、神経線維の変形により、神経線維は機能不全に陥ってしまいます。

 

(2)牽引性(伸張性)神経障害

 牽引性神経障害の代表例は、腕神経叢の引き抜き損傷でしょう。原因としては、交通事故や分娩麻痺、手術中の肢位などが挙げられます。

 

 また、長期間固定後のROM exでも注意が必要です。固定期間中に、神経組織の柔軟性が低下したり、滑走性が低下している可能性があります

 この状態で強いROM exを行うことで、牽引性の神経障害を引き起こしてしまう可能性があります。

 

梢神経障害の重症度

 末梢神経損傷の分類には、一般的に以下の2つが用いられます。

  • Seddon分類:1本の神経線維に着目。重症度を3段階に分類。
  • Sunderland分類:1本の神経管と神経束や周囲の膜の損傷の程度を5段階に分類。

 それぞれの分類はオーバーラップしているところもあります。

f:id:gene_ptkh:20190218225942p:plain

(1)Ⅰ度損傷

 Ⅰ度損傷(Neuropraxia;ニューロプラキシア)は、神経管の外部からの圧迫が原因となり、伝導障害が起こします。軸索の連続性は保たれているため、圧迫因子が取り除かれれば数日~数週(12週間以内)に回復するのが一般的です。

 

 神経の損傷は、運動神経の方が感覚神経よりも起こりやすいとされています(文献1)。そのため、運動>固有感覚>触覚>温覚>痛覚の順に障害され、回復はその逆をたどります

 

 臨床上でも、脊柱の疾患の場合、運動麻痺(下垂足など)があっても、感覚は残存していることが多く経験されます。また、術後の回復も痛覚、感覚が徐々に回復していき、筋力低下は最後まで残存していることが多いです。

 

(2)Ⅱ度損傷

 Ⅱ度損傷は、軸索断裂(axonotomesis;アクソノトメーシス)に該当します。この段階では、軸索は断裂していますが、神経結合組織(神経上膜・周膜・内膜)は連続性が維持されています。

 

 軸索はWaller(ワーラー)変性(断端遠位部の軸索は腫大し、その後、萎縮しながら消失する)が起こり、Tinel徴候が認められます。正常な回復過程をたどれば、Tinel徴候は0.5~2.0mm/日 の速度で遠位に進行していきます。

 

 Ⅱ度損傷の場合は、運動機能、感覚機能とも正常な回復が見込まれます。しかし、Tinel徴候の進行が遅い場合などは、手術の適応となる場合もあります。

 

(3)Ⅲ度損傷

 軸索断裂に加えて、神経内膜の損傷が起こった状態です。神経内膜は、神経線維を支持する組織であり、この組織が破綻することで、神経束内の線維化(瘢痕化)が起こってしまいます。

 

 この線維化は軸索の再生を妨害してしまうため、完全な回復は見込めません

 

(4)Ⅳ度損傷

 軸索、神経内膜、神経周膜が断裂した状態で、神経上膜によってのみ連続性が保たれています。

 断端の間には瘢痕組織が存在しているため、自然回復はまず見込めません。神経縫合を行っても回復は不完全となることが多い損傷です。

 

(5)Ⅴ度損傷

 Ⅴ度損傷は神経断裂(neurotomesis;ニューロトメーシス)と同様の定義で、神経上膜まで断裂し、神経管が完全に断裂した状態です。

 

 自然回復は見込めず、神経移植術や縫合術が適応となります。再生の過程で、神経過誤支配(一部の再生軸索がもとの効果器や受容器とは別の標的器官に接着すること)が起きる可能性が高いです。

 

 

f:id:gene_ptkh:20190217232409p:plain

梢神経の回復過程

(1)末梢神経の回復過程

 神経が損傷されると、逆行性の軸索輸送が途絶するため、骨格筋などの効果器で産生されている神経栄養因子(NGF:神経成長因子、BDNF:脳由来神経栄養因子)などが神経細胞に届けられなくなります。

 

 神経栄養因子の供給停止が引き金となり、損傷部の近位端でp75と呼ばれる、神経栄養因子の受容体が発現します。

 

 p75は損傷部位周辺で生成された神経栄養因子を受け取り、逆行性の軸索輸送にて神経細胞まで届けます。

 

 この仕組みにより、神経損傷後も神経細胞の壊死を抑制することができます

 

 次に、損傷部位の遠位軸索はワーラー変性を起こし消失します。これに合わせて、髄鞘も分断化します。

 

 分断化された髄鞘を構成するシュワン細胞は、次第に集まり、ビュングナー帯と呼ばれる神経再生のための足場を作り出します(ちょうど花道のような感じです)。

 

 損傷した軸索の遠位断端が、このビュングナー帯を探し当てることで、ようやく神経の再生が始まります。

 

 ビュングナー帯からは、再生神経のために神経栄養因子が供給され、さらにもともと繋がっていた効果器まで神経の伸長を誘導してくれます。

 

 再生した軸索が効果器に接続すると、再ミエリン化し再生が完了します。

 

f:id:gene_ptkh:20190218232755p:plain

(2)脱神経筋の回復過程

 末梢神経の損傷により、その効果器である骨格筋は大きな影響を受けます。

 

 末梢神経は損傷してから、ワーラー変性が始まるまでに期間があります。しかし、損傷の影響により伝導障害が起こり、随意運動で活動できる運動単位の数が減少してしまいます(運動単位の脱落)。

 

 この運動単位の脱落は徐々に進行していき、神経からの伝導が完全にブロックされてしまった筋線維は萎縮していきます(Denervation:脱神経)。筋の萎縮により、筋線維重量は脱神経から最初の1か月で30%、2か月で60%も減少するとされています(文献1)。

 

 脱神経筋は膜電位が不安定になることが知られています。このため脱神経筋では、個々の筋線維が自発的に発火をしてしまい、無随意収縮や筋線維攣縮を認めるようになります(文献5)。

 

 末梢神経障害を持つ患者さんでは、「攣りやすい」「ピクピク動くことがある」といった訴えを聞くことがあります。

 

 脱神経により萎縮した筋には、結合組織や脂肪組織が浸潤し変性が起こります。

 

 手根管症候群の患者さんを対象に、脱神経筋のエコー像を評価した研究では、重症度が高いほど、筋内のエコー強度は強くなり、また不均一性も大きくなっていたことが報告されています(文献6)。

 

 脱神経後、上述したように損傷した軸索の遠位端は、ビュングナー帯と結びつき神経の再生が開始されます。

 

 この間、効果器である骨格筋へは、神経の再支配が起こる前に、近くにある運動単位の筋内神経軸索からの神経発芽(sprouting)により、神経再支配が起こります。

 

 神経発芽による神経再支配を受けることで、障害された神経が支配する筋の伝導性は回復し、筋萎縮や収縮能力が回復していきます。

 

 最終的に、損傷したもとの神経からの再支配が完了することで、骨格筋の機能は受傷前と同程度に回復します(ただし、治癒までの期間が長く、筋の変性が強い場合は完全には回復しない)。

 

 

 さて、今回は末梢神経障害の基礎知識についてまとめさせていただきました。今後は、電気生理学的検査や理学療法評価についてもまとめていき、具体的な末梢神経障害に対するアプローチまでお伝えできればと考えております。

 

<文献>

(1)Gray A. Shankman 著, 鈴木勝 監訳. 整形外科的理学療法ー基礎と実践ー  原著第2版. 医歯薬出版株式会社. 2008: p214-218.

(2)奈良勲 監修. 運動器疾患の病態と理学療法. 医歯薬出版株式会社. 2015: p282-290.

(3)David S. Butler著, 伊藤直榮 他 編. バトラー・神経系モビライゼーション 触診と治療手技. 協同医書出版. 2000; p57.

(4)Topp KS, Boyd BS. Structure and biomechanics of peripferal nerve responses to physical stresses and implications for physical therapist practice. Physical Therapy. 2006; 86 (2): 92-106.

(5)豊田愼一, 下野俊哉. 特集Ⅱ:筋機能障害の理学療法評価の実際 末梢神経障害による筋機能障害の理学療法評価の実際. 理学療法. 2018; 35 (11): 979-989.

(6)Ji-Sun Kim, Hung Y. Seok et al. The significance of muscle echo intensity on ultrasound for focal neuropathy: The median- to ulnar-innervated muscle echo intensity ratio in carpal tunnel syndrome. Clin Neurophysiol. 2016; 127: 880-885.