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股関節深層筋:小殿筋

今回からは、股関節深層筋(小殿筋、梨状筋、外閉鎖筋・内閉鎖筋、大腿方形筋など)の機能解剖や運動中の活動について紹介していきます。

 

第1回は小殿筋(Gluteus Minimus:G-min)です。

まずは、筋の基本的な事項をおさらいしておきましょう。

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  小殿筋は、股関節の外転筋に分類されます。代表的な中殿筋(G-med)と比べてPCSA(G-med 前部は37.9㎠、後部は60.8㎠)、MV(G-med は287.6±50.2㎤)とも小さい筋ですが、股関節のインナーマッスルとして重要な機能を有していると考えられています。

 

 組織学的には、遅筋線維が占める割合が多く(Hitomi et al.,2005;対象はラット)、筋紡錘も多く含むことが報告されています(von Voss., 1971)。これらのことから、小殿筋は、筋力・トルクともに小さいですが、関節運動のコントロールや持久力が要求されるような活動(立位保持や長時間の歩行など)で重要な役割を担っていると考えられます。

 

 解剖学的には前・中・後部線維に分けられます。

 前部線維は前上方関節包にも付着することから、股関節の前方安定性に関与していると考えられています。また、関節包を緊張させることで、運動時の関節包の挟み込みを防いでいます。さらに、前上方の関節包をタイト(tight)にすることで、外転運動時に骨頭が上外方に変位することを防いでいる可能性もあります。

 次に、後部線維は、大腿骨頚部軸と平行に走行するため、骨頭を臼蓋に押し付け、求心性を高める作用があると考えられています。

 一方、これらの筋束は同一の腱に収束し停止することから、個々の区画が別々に活動することはないのではないかと推察する報告もあります(梅木ら、2009)。

 

    しかし、筋電図を用いた検討では、前部(中部を含む)と後部線維が歩行や様々な運動で別々に活動することが示されています。

 

 それでは、さまざまな運動において、小殿筋はどのような筋活動を示すのでしょうか?

 

 歩行時の小殿筋の活動についてSemciwら(2014)が報告しています。

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 歩行立脚期において、前部線維は2峰性の活動を示します。まず、荷重応答期(LR)から立脚中期前半(MSt:平均14.9%MVC)、そして立脚終期(TSt:平均15.6%MVC)です。一方、後部線維線維はLRからMSt前半で最も活動し(平均30.2%MVC)、TStではその活動が抑えられます(平均21.8%MVC)。

 

 筋活動量の比較だけでいえば、後部線維は歩行周期を通じて常に活動しているといえます。これは、前述した股関節の求心性を保つ効果のためではないかと考えられます。一方、前部線維の活動のピークは股関節が中間位から伸展位に変わる地点となります。このことからも、小殿筋の前部線維が股関節の前方安定性に寄与している可能性が示唆されます。

 

 また、同著者らは、股関節の各運動方向における等尺性収縮時の筋活動も調査しています。

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  上記の結果からも、外転や内旋動作では高い筋活動が起こっていることがわかります。また、伸展方向への等尺性収縮でも前部・後部線維とも40%MVCを超えています。

 歩行において、後部線維はLRからMSt前半の股関節屈曲モーメントに抗して活動していました。また、股関節が伸展位となるTStでも活動が認めれていました。一方、前部線維は股関節が中間位から伸展位になる際に活動が大きくなっていることから、股関節の前方の安定性に関与している可能性が示唆されていました。

 梅木ら(2009)の報告でもあるように、小殿筋の各区画は同一の腱に収束します。したがって、股関節が中間位から伸展位へと移行していく際に、後部線維は主として、求心位の保持と伸展運動に、前部線維は股関節前方の安定性を高めるために、同時に活動することで、スムーズな伸展動作を可能としているのではないかと考えられます。

 

  次にGandertonら(2017)らの報告を紹介します。彼らは、小殿筋に針筋電図を挿入し、以下の運動を行った場合の筋活動量(%MVC)を報告しています。

 

1)Hip Hitch(*)

2)Hip Hitch + 反対側のToe tap

3)Hip Hitch + 反対側のswing

4)外転等尺性収縮

5)起立-着座

6)Dip test

7)クラム ex

 

*Hip Hitch

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 小殿筋前部線維では、1)~4)の運動で40%MVC以上を記録しています。とくに荷重下で行うHip Hitchを伴う運動では60%MVC近くの活動が認めらました。このことから、小殿筋前部線維は股関節中間位~伸展位での股関節の前方安定性に寄与していると著者らは考察しています。

 

 後部線維でも同様の傾向がみられ、1)~3)の運動では60~80%MVCの活動が記録されました。さらに、後部線維はDip testでも高い筋活動を示しました(前部線維:22%MVC、後部線維:63%MVC)。Dip testは股関節に対して屈曲モーメントを負荷するものであり、伸展機能を持つ後部線維が選択的に活動したと考えられます。また、前部線維と同様、Hip Hitchを伴う運動で高い活動を示したことから、荷重下における股関節安定性に重要な役割を果たしていると考えられます。

 

 【まとめ】

・小殿筋は前部線維、後部線維で活動様式が異なる

・小殿筋は外転・内旋運動だけでなく、荷重下での股関節の安定性に重要な役割を担っている

・前部線維は股関節の前方安定性に、後部線維は屈曲モーメントに抗し、かつ骨頭の求心位を保つ

・小殿筋のトレーニングは荷重下で行う方が効率的。とくにHip Hitchを組み合わせた運動は高い筋活動を得ることができる

 

<文献>

1) Hitomi Y, Kizaki T et al.: Seven skeletal muscles rich in slow muscle fibers may function to sustain neutral position in the rodent hindlimb. Comp Biochem Physiology. 2005; 140: 45-50.

2) von Voss H.: Tabelle der absoluten und relativen muskelspindelzahlen der menschlichen skelettmuskulatur. 1971. Anatomischer Anzeiger: 129; 562–572. 

3) 梅木駿太、三浦真弘 他.ヒト小殿筋の構造形態学的特徴‐運動機能再考‐.第13回臨床解剖研究会記録.2009;10:28-29.

4) Adam I. Semciw, Rodney A. Green et al.: Gluteus minimus: An intramuscular EMG investigation of anterior and posterior segments during gait. GAIT POSTURE. 2014; 39: 822-826

5) Charlotte Ganderton, Tania Pizzari et al.: Gluteus minimus and Gluteus medius muscle activity during common rehabilitation exercises in healthy postmenopausal women. 2017. J Orthop Sports Phys Ther; 47: 914-922.